イベント
情文カフェ第18回:能面の表情を読む
2013年5月13日
情報文化学部はいわゆる理系・文系両方の教員が集まっているところですが,それはとりもなおさず多様な領域の相互作用の中で生まれる新たな発見のシーズが隠れていることを意味しています.そのようなシーズを顕在化させること,また話し手,聞き手双方がもっているセレンディピティをも顕在化させることを目指して,開いているカフェが情文カフェです.
原則として第4水曜日18時から,情報文化学部(全学教育棟北側)2階Phononで行っています.参加自由なので気楽にどうぞ.
日時:2013年5月22日(水),18時00分より
場所:情報文化学部(共通教育棟北側)2階Phonon
スピーカー:川合 伸幸 准教授
(情報科学研究科/JST岡ノ谷ERATO情動情報プロジェクト)
タイトル:能面の表情を読む
概要:
能面は、「能面のよう」と形容されるほど、無表情の代名詞となっています。しかし、能面の傾きを変えることで喜びを表現したり悲しみを表現することができます。
「テル」「クモル」として知られる表現です。
能はそもそも歌舞伎や文楽といった他の伝統芸能に比べて極端なまでに簡素化された表現を行う芸術です。その表現は、シテのみならず、囃子や謡などに担われるところも少なくありませんが、能の代表的なキャラクターである能面について調べてみました。能面をさまざまな角度に傾けて提示したところ、能を観劇するときに期待される情動とは異なる認知をされていることがわかりました。その原因を究明するため、Facetoolを使って能面の表情を変化させたところ、傾いた能面には喜びと悲しみの表情が混在していること、すなわちキメラであることがわかりました。さらに、顔のパーツをさまざまな組み合わせで入れ替えて提示したところ、口の領域が全体としての表情認知に重要であることがわかりました。
さらに、正面を向いた能面に、笑顔や悲しみの表情をしている陰を重畳して提示すると、陰によって表情の認知が引きづられることがあきらかになりました。能面を傾けた際の陰を正面顔の能面に重畳したところ、やはり同じ効果が得られ、表情が乏しいように見える能面は、陰の着き方によっても表情を変えているようです。陰の着き方による表情の強調や、歌舞伎の隈取りや中国の京劇にも見られ、多くの舞台芸術に共通している様式です。能はもともと明かり障子によって拡散された柔らかい光りやかがり火の明かりを基本に作られたといわれています。谷崎潤一郎が「陰影礼賛」で指摘したように、かつての日本人は闇に美しさを見いだし、おぼろげな見え方に強い感受性を示していたのかもしれません。木彫りで形の変わらない能面が表出する表情の研究をご紹介します。