イベント
情文カフェ第22回:環境情報へのアクセスの国際的保障の今
2013年11月20日
情報文化学部はいわゆる理系・文系両方の教員が集まっているところですが,それはとりもなおさず多様な領域の相互作用の中で生まれる新たな発見のシーズが隠れていることを意味しています.そのようなシーズを顕在化させること,また話し手,聞き手双方がもっているセレンディピティをも顕在化させることを目指して,開いているカフェが情文カフェです.
原則として第4水曜日18時から,情報文化学部(全学教育棟北側)2階Phononで行っています.参加自由なので気楽にどうぞ.
日時:2013年11月27日(水),18時00分より
場所:情報文化学部(共通教育棟北側)2階Phonon
スピーカー:高村 ゆかり 教授(環境学研究科)
タイトル:環境情報へのアクセスの国際的保障の今
概要:
情報へのアクセスの保障は、環境問題への対処にあたって不可欠で、各国がその保障を促進すべき要素の1つとして国際的に位置づけられています。環境情報へのアクセスの国際的保障は今いかなる到達点にあるのか。その展開と到達点に照らして、福島第一原子力発電所事故時の情報に関わる問題を素材に、日本における環境情報へのアクセスの保障について考えます。
参加者の感想
安倍内閣による特定秘密保護法案に注目が集まる時期に、とてもタイムリーなお話でした。1992年のリオ宣言原則10を受けて、国連欧州経済委員会(UN/ECE)で作成されたオーフス条約が採択、そして発効されてから十数年経った現在、 福島第一原発事故を経験した(している)日本において、環境情報をどう扱っていくのかを考えるよい機会でした。
福島第一原発事故では、巨額の資金を投入した緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータ開示に遅れがあったり、原発事故や放射能物質の漏出といった、政府の重要な情報の開示に対する対応に不信感が高まりました。情報開示という観点からいうと、日本は世界的にみても進んではいないそうです。日本が締約していないオーフス条約の目的は、主に①環境情報へのアクセス権、②環境に関する決定への参加権、③環境に関する司法へのアクセス権の三つを、締約国が保障することとなっています。私たちが、情報へのアクセス権と聞くと、おそらく(公的機関が)持っている情報を請求に応じて開示してもらう権利をイメージすると思います。実際に僕もそのようなイメージを思い浮かべていました。しかし、これは消極的な開示とのことです。では、積極的な開示はどのようなものなのでしょうか。それは、(公的機関が)情報を収集し、保有し、普及に努めることを言うのです。オーフス条約には、この積極的な開示の義務が含まれています。
オーフス条約が保障している環境情報開示請求権には特質ともいえるべき点がいくつかあります。その中でも関心を抱いたのが、「公的機関」の範囲と、「開示拒否事由」の範囲です。「公的機関」の範囲とは、どこまでの組織に公衆が情報開示請求権を確保することができるのかということです。ある国では、あるプロジェクトを行う際に、政府が情報開示を免れようとして、実行する企業をつくった例もあるそうです。そんなことまでやってしまうのですね…。「開示拒否事由」の範囲とは、拒否事由を制限的に解するものです。審査では、公益テストによってその情報を開示することによってどれだけ「公益」が得られるかを考慮するとのことでした。これは、日本の「公益」に対する考え方とは逆というお話もされていました。日本の法制度では、どちらかと言えば個人の権利を狭めるものとして「公益」が考えられてきましたが、反対に、この公益テストでは個人の権利を広げていく向きにおいて考えるからです。こうした方向の「公益」については、日本の裁判所ではなかなか考慮してくれないそうです。
これらの特質から、まだまだ課題は多くあることが分かりましたが、日本において環境情報へのアクセスを保障する意義を感じることができたと思います。放射能など、科学的不確実性を伴うものを、そのまま科学や政府のみに負わせるのではなく、公衆も判断や問題提起を早い段階でできるような、環境情報が集まり、かつ流れるしくみをつくっていくことが必要なのだと思いました。
(社会システム情報学科:岩井周大)