イベント

情文カフェ第26回:マイナス1600万年深海の旅

2014年6月4日

情報文化学部はいわゆる理系・文系両方の教員が集まっているところですが,それはとりもなおさず多様な領域の相互作用の中で生まれる新たな発見のシーズが隠れていることを意味しています.そのようなシーズを顕在化させること,また話し手,聞き手双方がもっているセレンディピティをも顕在化させることを目指して,開いているカフェが情文カフェです.

原則として第4水曜日18時から,情報文化学部(全学教育棟北側)2階Phononで行っています.参加自由なので気楽にどうぞ.

日時:2014年6月25日(水),18時00分より
場所:情報文化学部(共通教育棟北側)2階Phonon

スピーカー:氏原 温 准教授(環境学研究科)
タイトル:マイナス1600万年深海の旅

概要:
今回の話の主役は深海魚の化石です。ただし、皆さんが期待するような奇妙な姿をした魚の全身骨格の化石は出て来ません。小さな歯や耳石(硬骨魚の頭骨内にある平衡器官の一部)といった顕微鏡で観察するような微小なパーツの深海魚化石を紹介し、それらが何を物語るかについてお話ししたいと思います。話の舞台は今から約1600万年前の日本各地。この頃は気候がとても温暖で、本州は熱帯から亜熱帯の気候下にあったと考えられています。この時代の日本近海にはどんな深海魚がいたでしょうか。そして、彼らのいた深海はどんな環境だったのでしょうか。なお、準備ができれば(港に深海魚が揚がれば)深海魚の試食と耳石の採取もやってみたいと考えています。

 

cafe26

参加者の感想

氏原先生の授業を2年生の時に受けたことがあり、その時は恐竜の化石を題材に挙げられていました。今回は深海魚の化石についてお話して頂けるということで、また違った内容が聞けるのを楽しみにしていました。

導入として、先生がなぜ深海魚に注目したのかを説明されていました。長年クリオネなどの翼足類を研究されていて、ある時サメの化石について研究したいと言った大学院生の研究に携わるうちに深海生物にも関心が出てきたそうです。また、趣味で深海生物の本を多く集めていたことも原因だったとのことでした。最近、深海生物は話題になることが多く、以前より注目されている状態だと言えます。そのせいなのか、深海生物を対象とした研究への注目度も増しているようで、例えば東海大学では5月にメガマウスザメの公開解剖が行われていました。

次に、深海魚の化石についての基礎知識をいくつか教えて頂きました。深海は一般に水深が200m以深の海を指します。深海魚の生息地もその辺りになりますが、時折水中を上下に移動する種もいます。見つかる化石の中で尾頭が付いているものは珍しく、多くは体の一部分が残った部分化石です。その代表として歯・ウロコ・耳石があり、これだけでも種の同定が可能な場合があります。

いよいよ先生が実際に行われた調査内容のお話です。調査地域は岡山県・富山県・三重県で、約1600万年前にできた地層が対象となっています。「地層の調べ方は古新聞紙の山から情報を取り出すのに似ている」とおっしゃったのですが、これは地層も新聞紙の山も上に行くほど新しいため、下から上に向かって調べるからだそうです。とても分かりやすい表現だと思いました。対象とした地層の岩石はやわらかいため、乾燥させてから水に浸けて泥化させることで不要な部分を取り除くことができます。その後顕微鏡で化石を探します。資料の分析が終わったらデータを集積し、種の同定に入ります。

同定結果としては、種まで特定できる場合もあれば、属や科までしか判断できない場合、それさえも分からない場合もあります。今回の調査では、例えばハダカイワシ科の耳石のうち、トドハダカだと分かったもの、ゴコウハダカ属だと分かったもの、絶滅してしまった可能性のある不明種のものなどがあったそうです。

このように先生は様々な深海魚の化石を発掘されていますが、そもそも見つけることにどのような意味があるのでしょうか。先生いわく、「そんなサカナが昔いたことが分かったのが重要」。とは言え考えられることは他にもあり、当時の深海の環境や日本近海の深海魚類相の歴史を知る手がかりになります。この時代の深海には南方系と北方系の魚類が同居している場合があるそうです。これは生息に適した水温が異なる種同士が共存していることになり、どう解釈すべきなのか頭を悩ませているとおっしゃっていました。昔の海が暖流と寒流の中間ぐらいの水温だったという説、底水層の上の方は温かく下の方が冷たいと考える説、表層と底層は温かいが中層に冷水の流れができている説などが考えられていますが、いずれも妥当性が十分ではないとのことでした。また、北方系・南方系の区分が今と昔で異なるかもしれないという考え方、いわゆる現在主義がどこまで通用するのかという問題もあり、一筋縄ではいかないようです。深海魚の化石を発掘する他の意味として生物の深海進出の歴史を探ることができるそうで、シーラカンスやウミユリがかつて浅い海で暮らしていたことが分かっています。深海生物は浅い海から巡って来た酸素を使い呼吸するので、水の循環が起こっていない時代ではほとんど生存できません。そのため、中生代よりも最近の方が生き残りやすい環境であると言えます。

最後に、情文カフェという場での講義をするにあたり情報文化学部らしい研究テーマを考えられたそうで、深海魚の魅力をより伝えるために写真かイラストかスケッチのどれを用いたらよいかという研究をすればよいのではないかとおっしゃっていました。

講義後、数多くの質問がなされました。特に印象的だったのが化石の同定の自動化は可能なのかという問いで、先生は様々な特徴から同定に必要な情報を上手く抜き出すのは困難であるものの、専門家が着手すれば可能かもしれないと答えていました。また、今回のテーマを扱っている研究者はどのくらいいるのかという質問もなされ、耳石の研究者は日本に数人、深海魚の化石については世界でも数十人とのことでした。思った以上に少なかったので驚いたと同時に、誰もやっていないことをするのが楽しいという先生の言葉に深く共感しました。
(自然情報学科:花木真美)

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