イベント
情文カフェ第25回:哲学を役に立てるとはいかなることか
2014年4月30日
情報文化学部はいわゆる理系・文系両方の教員が集まっているところですが,それはとりもなおさず多様な領域の相互作用の中で生まれる新たな発見のシーズが隠れていることを意味しています.そのようなシーズを顕在化させること,また話し手,聞き手双方がもっているセレンディピティをも顕在化させることを目指して,開いているカフェが情文カフェです.
原則として第4水曜日18時から,情報文化学部(全学教育棟北側)2階Phononで行っています.参加自由なので気楽にどうぞ.
日時:2014年5月28日(水),18時00分より
場所:情報文化学部(共通教育棟北側)2階Phonon
スピーカー:戸田山 和久 教授(情報科学研究科)
タイトル:哲学を役に立てるとはいかなることか
概要:
哲学は「いじられキャラ」です。みんな、哲学とは何か、どうあるべきかについて勝手なことを言います。私は、2008年に「応用哲学会」なるものを立ち上げました。また、最近の著書で哲学を「概念工学」として特徴付けもしました。どちらも哲学内外から、賛同も批判もいただいています。そこで、哲学が役に立つとはどういうことなのか。役に立つには哲学はどうであるべきなのか。そもそも役に立つべきなのか、といったことについて私の考えを聞いていただき、議論したいと思います。ま、ようするに「役に立つ」といったときの「役」って何よ、ということを哲学しましょう。ということですね。
参加者の感想
哲学は、現代では役に立たないものの代名詞になってしまっています。しかし役に立たないものがここまで発展するわけがありません。もちろん役に立ちます。それを伝えるのが今回の情文カフェの目的です。
哲学は、生活する中で役立つ部分と科学者に役立つ部分があります。私たちは、先人から様々なものを文化とか教育という形で受け継いできました。では、その中で私たちを幸せにしたり、支えてくれたりしているものは何だろうと考えてみましょう。そうすると、たいていの人は科学技術を思い浮かべると思います。しかし、こうした恩恵を与えてくれているのはなにも科学技術だけではありません。同じくらい、もしかしたらそれ以上に影響を与えてくれているものがあります。それは概念というものです。例えば人権という概念。もしこれがなければ多くの人が困ってしまいますよね。概念を生み出すのが哲学の一部の分野の仕事なので、やはり哲学はすごく役立っていると考えられます。
では、一方で哲学は科学者にはどのように役に立っているのでしょうか。戸田山先生は、ティム・ヴァン・ゲルダーの「認知科学における哲学者の役割」のことを数理論理学の成り立ちを辿りながら説明していました。自然数論を説明することのできる数理論理を探すこと、これを導くために哲学的思考がすごく役立ちました。これがなければ数理論理学という分野は生まれなかったであろうとされています。分野を作り出してしまう哲学。
ここまでで、過去の哲学が役立つことが分かりました。じゃあ現代の哲学者は何をやっているのか。
100年以上前の偉人たちが哲学を学ぶ理由は、自分が研究している分野に必要であったから。つまり哲学だけを勉強している人はいませんでした。しかし現代の哲学者と呼ばれる人たちは哲学を専門として研究しています。以前とは哲学の扱われ方がずいぶん変わってしまったのです。戸田山先生によると、この状況では、哲学者はロマン主義に走りすぎてしまい、本当の意味では役に立たないままになってしまう恐れがあるそうです。ちなみに、戸田山先生著「哲学入門」の最後の方で、どのようにすれば、哲学を本当の意味で役に立てることができるのか、についてヒントが書いてありますので、そちらも参照していただきたいです。
今回の話を聞いて「おじさんのかさ(佐野洋子著)」の物語を真っ先に思い出しました。現代の哲学者や科学者は物語に登場するおじさんで、哲学は傘、とあてはめました。この物語の最後では、おじさんは傘の正しい使い方に気づきました。この物語のように、哲学に関しても正しい使われ方に気づいてもらえるといいなと思いました。
学生の僕としては、まだまだその哲学を必要とするレベルではないですが、将来哲学を取り巻く状況が、哲学を本当の意味で役に立たせる方向に変わっていけば、今問題になっている原発などの問題も解決することでできるのではないかと思いました。
(自然情報学科:小川遼太)