インタビュー

軸足をもって幅広く見渡せるような人に。(1)
-情報文化学部長 神保 雅一

2013年9月9日

神保 雅一(じんぼうzhinbou1 まさかず)教授

東京工業大学より理学博士の学位を取得後、

東京理科大学理工学部助手、筑波大学社会工学系講師、

岐阜大学工学部助教授及び教授、

慶應義塾大学理工学部数理科学科教授を経て、

現在名古屋大学大学院情報科学研究科教授。

情報文化学部長である先生の分野は、離散数学、数理情報科学、実験計画法。

―はじめに先生の研究内容について教えてください。zhinbou2

一言で言うと、離散数学とその応用かな。例えば、ただのゲームに見えるような話がいろんな分野のバックグラウンドになって、実際に使われていたりする。例を挙げると、7人のプレイヤーがいて、3人ずつゲームをするのだけど、AさんはBさんをカモにしているので、何回もBさんとゲームをしたい。一方、BさんはできるだけAさんと顔を合わせたくない。そこでBさんがAさんとは2回やるのに、Cさんとは1回もやらないと、Bさんは文句言うでしょ?なので、それを避けるためには全員が同じ回数ずつゲームをやる必要がある。でも、組み合わせを順にABC,BCD,CDE,DEF,EFG,FGA,GABとすると、AさんはBさんと2回当たるのに、Cさんとは一回しか当っておらず、先ほどの条件を満たしていない。そこで3番目を1つずつずらして、ABD,BCE,CDF,DEG,EFA,FGB,GACとすると、先ほどの条件を満たすことができる。後者のように少し変えるだけで、このようなきれいな構造ができるでしょ。この組合せ構造は、統計的実験計画法にも使えるのです。どう使うかというと、7種類の品種があるとする。だけど、土地が狭くて、3品種しか1年間に植えられない。7年間でどの品種が優れているのかを判断するための、各年の組合せを決めるために、この組合せ構造を使う。例えば、ある年に台風が来るかもしれないし、ある年は天気が良くて収穫量が例年より多いかもしれない。だけど、任意の2品種が一回ずつ比較されているこの構造なら、2つの差を全部見ることができる。だから、こういうものが使われています。このように、きれいな構造がどういうところに使われているのかっていうことを研究しています。

もう一つ、統計もやっています。去年の4年生と卒業研究でやったのが、数万人のデータを使って、メタボになる要因の調査です。この人たちが5年前にこうだったとすると今どうなるかという統計的な因果関係を調べました。血糖値とか血圧や、γ(ガンマ)-GTPなどの肝臓に関する数値が関係あるのだろうと言われていたのだけど、調べたら意外なことに尿酸値とも非常に関係があるというのが分かった。それは今まできっとあまり言われていなかったことなのだけど。そういうことも興味があってやっています。

―そういう企業との連携は多いのですか?

いや、昔はあったのだけど、最近はちょっと少なくなっていて。やらないとな、と思ってこの研究をやり始めた。今年も4年生が統計をやりたい、と言っているので、もう少しやってみようかなと思っています。

―次に情文生に対し、先生が推奨したいことはありますか?

モラトリアムという言葉がありまzhinbou3すよね。最近の大学生でもそうかもしれないけど、僕らの時代も大学生ってモラトリアムって言われていて。社会に出る期間を猶予してもらっているってことで、そういう期間をどう使うか。あまり良い意味で使われていない言葉なんだけど、そういう期間を大学生は与えてもらっているわけだから、それを自分でどうやって使うか4年間真剣に考えることは必要。特に情文にいると、幅がすごく広いので、目標を見失ってしまう人が少なくない。だから、その期間に自分に何を充電しようかっていうことをよく考えてほしいなと思います。それと、何をしようかって考えることは重要なんだけど、僕はこれが専門なのでこれしかやらないっていう風に大学生のうちから自分を規定してしまう人が少なくないんですよね。例えば、僕は数理情報系にいるんですけど、僕は数理なのでこれしかやりません、数理の中でもこういうことなので他のものはやりません、っていうのはあんまり良くないよね。情文では1、2年生の間に幅広い教育を受けてきているわけですよね。情文に入ったのだから、それを活かすようなことを考えてみてほしいですね。言ってみれば、情文の学生というのは、ジェネリック・スキル-generic skills-、要するに汎用的な能力を持っている、つまり幅広い。そういう学生として育っていってほしいんですけど、一方で、どこかに自分の軸足は持っていてほしい。どこかに軸足をもって幅広く見渡せるような人として育っていく準備をしてほしい、というのが僕の思いです。

あともう一つ。海外に行きましょう。遊びに行くのも悪くないけど、ただ遊びに行くだけだともったいないので、海外に行ったら絶対に大学を見てこよう。で、同世代の大学生と話をしてこよう。そういうことをやるのは非常に重要なことで、自分の将来を考える上でいいことだと思います。それとね、名古屋大学って東海3県から7割の学生が入ってくるでしょ。就職先も東海地区。それで十分事足りてしまう。なので、あまり外に目を向ける必要がなくなってしまう。だけどそれはぜひ避けてほしい。愛知の企業ってモノづくりですよね。でもモノづくりの企業っていうのは、どこを見たって絶対に海外に足を延ばしている。工場があったり取引先があったり。なので、東海地区に就職しようと絶対に世界を見る目は必要。なので、学生のうちから世界を見ておきましょう。

―海外というのは、地域にこだわりは?

どこでもいい。例えば、近いからアジアでもいいと思う。アジアって今、世界の人口の6割を占めているんじゃないかな。だから、まずは旅費もそんなにかからないし、近くで大学生がどんなことを考えているのか見て来ようというのは良いと思います。アメリカもヨーロッパももちろん良いと思います。まずは同世代の学生がどんなこと考えているのか、というのはぜひ見てほしいと思います。

―そこで刺激をうけるということですか?

そうだね。こんなこと考えているのか、僕らはこんなこと思ったこともない、といったように。日本は沈没しかけているとはいえ裕福なので、やっぱり余裕があって、のんびりしてしまっている部分はありますよね。危機感を持って見てほしいです。

インタビューの後半はこちらです。

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